Embedded業界紳士録

第二十九章 
アップウィンドテクノロジー・インコーポレイテッド
代表取締役社長 中村 憲一


逆風下での起業



アップウィンドテクノロジー・インコーポレイテッド
代表取締役社長 中村 憲一


皆様、あけましておめでとうございます。
Upwind Technology, Inc.の中村憲一と申します。

昨年中は一方ならぬご愛願をいただき、誠にありがとうございました。
本年も社員一同、一層の精進をいたす所存でございます。
なにとぞ宜しくお引き立ての程お願い申し上げます。

それでは、早速、若輩ながら私個人について、それから弊社について紹介させていただきます。

『簡単な自己紹介』
1971年生まれのおうし座のA型でよく几帳面な性格と言われます。家族は美しい妻1人と太った猫1匹で、趣味は、テニス、スキー、ゴルフ(スコアは四捨五入すると200)、1998年に購入したハイブリッドカーでのドライブ、そしてセスナの操縦です。私も米国で操縦訓練を受けた怪しい?外国人の一人ですが、最近は時間と燃料代がないので実機ではなくPCやPS2の仮想空間の中で飛んでいます。

『学生時代』
私とエンベデッドシステムとの関わりですが、自分でガンダムを作りたかったために大学でロボットの制御を5年間学んだことから始まりました。5年間と言っても、大学院ではなく学部のみで、1年次からロボコンに参加したりして戦っていました。また、5年次に配属された研究室では、光ファイバジャイロを使用した自律移動ゴミ収集ロボットの開発を担当し、企画・設計から、油にまみれながらのフライス盤や旋盤での部品作成、組み立て、制御プログラムの作成、デバッグと試験までたった1年で一通り経験することができました。自分で言うのもなんですが、なかなか面白い出来だったためかNHKのスタジオに運び込み、全国放送番組でお披露目することが出来ました。

『就職』
大学生活が5年と長かったせいか、ちょうどバブルが弾けきった時に卒業してしまいましたが、運良く三菱スペース・ソフトウエア株式会社に就職することができました。宇宙関連の業務をしたかったのですが、運悪く、いや運良く鎌倉事業所に配属され、三菱電機株式会社鎌倉製作所内で某艦船関連の大規模な組込ソフトウェアの設計、開発業務に携わらせていただきました。今ですらまだまだ新しいですが、当時としては画期的だったオブジェクト指向による大規模システムの分析、設計、実装という貴重な経験をさせていただきました。(残念ながら、この辺のお話は国家機密でしたのでここでは控えさせていただきたいと思います。

『そして転職』
一方、当時はSGIやNetscape社など、シリコンバレーの企業がメジャーになりつつあった頃で技術雑誌などでも度々紹介されており、長期の有給休暇をとって個人で訪問したりするくらい憧れていました。そこで、日本の人材紹介会社に「シリコンバレーで働きたい!」と登録してみたのですが、シリコンバレーで日本人を求人している日本の会社はほとんどありませんでした。ところが、なぜか登録もしていない外資系の人材紹介会社からすぐに日本シグナスソリューションズを紹介されました。なぜ、私の情報を知ったのかと尋ねたところ、当時私が開設していたホームページに掲載していた英文の履歴書を見たとのことでした。半信半疑ながら、本紳士録の第五章でも紹介されている伊藤ゼネラルマネージャ(当時)にお会いしたところ、「いつ入社可能ですか?」ということで「若手の広場」でも紹介されている石井セールスマネージャ(当時)に次いで3人目の社員となることが出来ました。「外資会社への転職はこんなに簡単なのだろうか?」などと思っていましたが、単に日本語の話せるソフトウェアエンジニアがいなかっただけなのかもしれません。(^^;
後で聞いたところ石井さんが利用したのと同じ人材紹介会社だったようです。1997年9月30日に退職し、翌日、二日酔いで飛行機に乗り、そのまま本社へ出社しました。実際は、東京勤務でしたが、業務で頻繁に本社に通いましたので、アメリカ合衆国という国の文化にたくさん触れることができ、憧れていたシリコンバレーでの生活も少し経験することが出来ました。

『今度は転籍、そして解雇』
日本シグナスでは、アセンブラ、コンパイラ、デバッガなどの組込システムの開発のためのGNUソフトウェアやeCosというCygnus Solutions社が開発した新しいRTOSのサポートに携わり、日本のお客様と本社のインターフェースとして従事しましたので、私を知っている読者の方も多いと思います。売り上げも上がり、日本のお客様も増えて急成長していたところ突然、Red Hat社との合併が発表されました。当時、日本シグナスは外国法人でしたのでRed Hat社の日本法人であるレッドハット株式会社と合併することは出来ず、2000年6月30日に一旦退職し、翌日、レッドハット株式会社に入社しました。それと同時に、エンジニアが一人退職し、半年後、また一人退職し、結局、組込分野のエンジニアは私だけになりました。GNUツールとeCosのサポートは継続していましたが、さらに、組込Linuxのサポートもするようになり、ますます大変になりました。本社のほうも同様で、エンジニアの数が極端に減少し、結果的にソフトウェアの品質やサポートの質が落ちてしまいました。品質が落ちれば、お客様もいなくなるのは当然のことで、エンジニアの数に追随するように世界的にお客様の数も減少し、売り上げも減少しました。よって、利益率の少ない組込分野は業務縮小されることになり、2002年7月31日付けで私を含め多量に解雇されました。

『ついに起業』
このとき、結婚して1ヶ月後でしたので順風満帆かと思われていた新婚生活に一気に逆風が吹き荒れました。しかし、早速、いろいろな業界の方々よりお声をかけていただき、1ヶ月間就職活動を行いましたが、技術者不足の間はいつでも就職できるだろうと勝手に思いこみ、新妻にもあまり相談することはなく、また幸いにもローンも扶養家族も抱えていなかったので思い切って起業してみることにしました。もちろん、思いつきではなく、以前からいつかは起業しようと思っていましたが、こんなに早くチャンスが来るとは夢にも思ってはいませんでした。

独立するのであれば個人事業主でも良かったのですが、夢だけは大きくワールドワイドでの展開を目指し、新婚旅行を兼ねて訪問したアメリカ合衆国ハワイ州にて、Upwind Technology, Inc.を設立し、日本に支店を開設しました。れっきとした株式会社なのですが、潤沢な資金もありませんでしたので私個人のみの出資で1,000株でスタートしました。弊社の1株は、1米ドルですので資本金はたった1,000米ドルになります。もちろん、株式公開がゴールではありませんが、近いうちにNASDAQで株式公開できるくらいに会社を成長させたいと考えております。

お客様から「なぜハワイ州なのでしょうか?税金が安いのでしょうか?」とよく尋ねられますが、別にハワイ州の法人税が日本と比べて安いわけではありません。ハワイ州の修正法(日本の商法)では、役員が州外(国外)在住でも構わないという条件がついていることと、日本から近いということで、ハワイ州を選びました。しかし、将来的には新婚旅行で訪れたマウイ島あたりに自宅兼オフィスを構え、自家用セスナを所有したいと密かに考えています。(^^;

ちなみに、アップウィンド(Upwind)とは「逆風」とか「風に向かって」という意味で、縁起を重んじる日本人にとってはあまり好まれない名前ですが、組込業界に逆風を吹かせるために会社を設立したわけではなく、むしろ逆風に吹かれて困っている人々に飛行機の翼やヨットの帆のような逆風に向かって進むことのできる技術やサービスを提供することにより、社会に貢献することを目標にしております。

『会社紹介』
では、具体的に何を提供しているのかということですが、今までの経験を基にGNUソフトウェアの開発、サポート、教育、普及活動などを行っております。GNUソフトウェアと一言で言っても多数のソフトウェアがあり、コンパイラなどの開発環境からeCosのようなRTOS、組込Linux、データベースエンジン、その他アプリケーションまで無数のソフトウェアがあります。もちろん、そのすべてを一社でサポートすることは不可能ですので、弊社では組込システムの開発に有益なソフトウェアを取り扱っております。

GAS, GCC, GDBなどのGNU開発環境は、T-Engineの開発環境としても採用されており、ますます注目を浴びていますが、日本国内では、まだまだ普及しているとは言えないでしょう。そこで弊社では、日本語での開発受託、日本語ドキュメントの作成、日本語でのサポート、日本語でのトレーニングなど、日本シグナスやレッドハットでは出来なかった日本人のエンジニアに特化したサービスを提供しております。

『少しだけ宣伝』
日本語でのトレーニングについて宣伝させていただきますが、弊社ではGNU開発環境やeCosのトレーニング、組込Linuxのデファクトスタンダードとして広く普及しているMontaVista Linuxのトレーニングなどを既に手がけております。また、オンサイトでのトレーニングにも随時お応えしております。
株式会社アドバンスト・テクノロジーセンター様のご協力で
1/20(月)「組込みシステム開発のためのGNUソフトウェア活用法(PDF)
2/17(月)「RTOS「eCos」活用の基本テクニック(PDF)
と題したセミナーを開催しますので、ご興味のある方は是非とも御受講いただければと思います。

また弊社は、(社)日本システムハウス協会、(社)トロン協会、T-Engineフォーラムに参加させていただいており、皆様のお目にかかる機会も多いかと思いますので、何かお困りの際はどうぞご遠慮なくお声をかけていただければと思います。また、私個人、電気通信大学企業家懇話会なる会にも所属し、組込業界(ハードウェア関連が多いようです)の方々と交流しておりますので、電通大を卒業された方は是非ともご参加いただけますようお願いします。

『終わりに』
昨年は逆風下での起業で業界の一部の皆様を驚かせましたが、Linuxの経験を持つ優秀なエンジニアも2人入社し、初年度から利益を上げることが出来ました。(弊社の社員については、また近日中に「若手の広場」のほうで紹介させていただきたいと思います。)今年は、増資も計画しておりますので株主の皆様の期待に応えられるようがんばりたいと思います。
皆様、Upwind Technology, Inc.をどうぞよろしくお願い申し上げます。

以上、長文になってしまいましたが、ここまでお読み下さり誠にありがとうございました。
今年も皆様にとって公私ともに素敵な年となることをお祈りします。

January, 2003

Upwind Technology, Inc.
President
Kenichi Nakamura

Email: nakamura@upwind-technology.com
http://www.upwind-technology.com/

 

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